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2009年8月20日 (木)

最判平成21年8月12日-弁護士法28条違反の債権譲受けの効力

弁護士が委託を受けた債権回収等の手段として訴訟の提起等のために当該債権を譲り受ける行為は,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮に弁護士法28条違反であったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではない。

1 本件は,A(以下「譲渡人」という。)から,譲渡人の相手方に対する金銭債権を譲り受けたと主張する抗告人が,同債権を被保全権利として,相手方の第三債務者に対する預金債権につき,仮差押命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。

  (1) 譲渡人は,平成18517日,相手方との間で,相手方及び相手方の組合員が実施する外国人研修事業につき,譲渡人が中国人研修生等を日本に派遣等するために必要な経費の一部を相手方が負担し,相手方が譲渡人に対し,これを送金して支払う旨の契約を締結した。

(2) 抗告人は,弁護士であり,譲渡人から上記契約に基づく債権の回収を依頼されていたところ,平成2021日,平成198月分~平成201月分の相手方の経費負担額111万円(以下「本件負担金」という。)の支払を求める本案訴訟の提起保全命令の申立て等の手続をするために,譲渡人から本件負担金の支払請求権(以下「本件債権」という。)譲り受けた。抗告人が本件債権を譲り受けたのは,譲渡人が日本国内に登記した支店,営業所を持たない外国法人であるため,その訴訟追行手続上の困難を回避するためであった。

(3) 抗告人は,同月8日,本件負担金の支払を求める本案訴訟を提起し,同月12日,本件申立てをした。

3 原審は,次のとおり判断し,被保全権利の疎明がないとして,本件申立てを却下すべきものとした。

抗告人が本件債権を譲り受けた当時,本件負担金の支払を求める訴訟等は係属していなかったから,本件債権の譲受けが,弁護士法28[弁護士は、係争権利を譲り受けることができない]に違反する行為であるとはいえない。しかし,弁護士の品位の保持や職務の公正な執行を担保するために弁護士が係争権利を譲り受けることを禁止した同条の趣旨に照らせば,本件負担金の支払を求める訴訟等が係属していなかったとしても,本案訴訟の提起や保全命令の申立てをすることを目的としてされた弁護士による本件債権の譲受けは,特段の事情がない限り,その私法上の効力が否定されるものというべきであり,本件債権の譲受けは無効であって,抗告人が本件債権を有しているとはいえない

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗反するような事情があれば格別
仮にこれが弁護士法28違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力否定されるものではない(S491107参照)。そして,前記事実関係によれば,弁護士である抗告人は,本件債権の管理又は回収を行うための手段として本案訴訟の提起や本件申立てをするために本件債権を譲り受けたものであるが,原審の確定した事実のみをもって,本件債権の譲受けが公序良俗に反するということもできない。

宮川補足意見 事案にかんがみ,弁護士法(以下「法」という。)28条に関連する弁護士倫理上の問題に関し,付言しておくこととする。

本件のような取立てを目的とする債権譲受行為の私法上の効力が否定されない,さらには法28条に違反しないとされる場合であっても,その行為は,弁護士倫理上の評価を受ける。弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号。以下「基本規程」という。)17条は,「弁護士は,係争の目的物を譲り受けてはならない。」と定めている。基本規程は,日本弁護士連合会が,会規として,その自治機能に基づいて弁護士がその職務遂行に当たって,自律的に遵守すべき行為規範・義務規定及び目標として努力すべき職務行動指針を定めたものである。そして,基本規程17条は,弁護士の行為規範・義務規定を定めたものであり(基本規程82),広く争いがある場合においてその目的物を譲り受ける行為を禁じており,これに違反する行為は,「品位を失うべき非行」(561)に該当するとして,懲戒の対象となり得るものというべきである。もっとも,懲戒判断は,弁護士の職務の多様性と個別性にかんがみ,事案に即した実質的な判断がなされなければならないが(日本弁護士連合会弁護士職務基本規程解説起草検討会『解説弁護士職務基本規程』135)取立て目的とする債権譲受行為は,債権を譲り受けなければ,当該権利の実行に当たり支障が存在するなど,行為を正当化する特段の事情がない限り,「品位を失うべき非行」に該当するものといわなければならない。

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